オラトリオ「森の歌」作品81

アシュケナージ指揮 ロイヤル・フィル テミルカノフ指揮 ペテルブルク管 テミルカノフ指揮 ペテルブルク管(ライブ)

第5曲の中です。ここでは合唱の伴奏として突如ホルンの8部音符が連発して出てきます。とはいえ本当にただ同じことを反復しているだけで、ハイドン的というかプロコフィエフのパロディなのか、とにかく楽譜的に見てもこれといって何ということもない、さほど不思議でもなければ特に印象的でもないような伴奏なのですが、しかし私は昔からどうもこの箇所が気になっていて、何か裏というかショスタコビッチらしい引用か何かの意図があるようにも思えてなりません。

合唱のパートには ff が付けられているため、ホルンの方もまとめて ff になっています。これはそれなりに合理的なようにも思われますが、しかしホルン4本で ff で吹けば現実的には合唱以上に音が出るというか通ることになるので、相対強弱の点では「合唱に合わせて」という解釈がそのまま通るかどうかは微妙なところです。とはいえ実演ではこの部分をそつなくまとめてしまっている演奏が多いのですが、そんな中でエフゲニー・スベトラノフの伝説的なライブ盤では、恐らく楽譜に忠実なパターンとしてこのホルンがかなり強調されています。

スベトラノフ指揮 ソビエト国立響 ムラビンスキー指揮 ソビエト国立響

続きです。ちなみにここのオケはトゥッティで、他のパートも ff なので必ずしもホルンだけが強調されると考える理由はありません。それにホルンの音形はビオラとチェロも一部重ねているため、特にホルンだけを際立たせるのは必ずしも妥当とは言えませんが、しかしこと「反復」ということに関してもまた特異なこだわりを見せることが多いショスタコビッチだけに、さほどその「反復」という面を見せることがないこの曲の中にあって、この場面はまた何か特別な意味があるのかもしれません。

エフゲニー・ムラビンスキー指揮 ソビエト国立交響楽団

同じことを繰り返しているようにも思われる第5曲ですが、実は曲の進行に合わせて様々な変化をつけています。ここでは男声合唱のバスが堂々と活躍していますが、これに低弦が重ねていることに加えて高音部ではこの主題を追いかけるカノン風の作りになっています。というあたりはスコアで見れば一目瞭然なのですが、しかし実演では意外にもここで特に木管が先に出るバスの主題に合わせてしまう、つまり一小節早くなってしまう場合もあるので要注意。馬鹿らしい話しですが現実に結構このパターンに陥ってしまうことがあるのです。

ウラディミール・アシュケナージ指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

一般的に使われているパート譜の方にも問題があることは指摘しておきますが、ここまでずっと行進曲のノリで押してきているため、特に管楽器はブラバンの血が甦ってしまうのかもしれませんが、しかしこれは紛れもなくオーケストラ曲ですし、そうでないとしてもオーケストラ伴奏の合唱曲ですから、実はそれほど素直な譜面ではありません。このコーナーは楽曲の紹介を基本としているためあまり深くは切り込みませんが、しかし実際によくよく楽譜を見てみればショスタコビッチらしい様々な罠が仕掛けられていることも確かなので、その点は心してかかることをお勧めしておきます。

エフゲニー・スベトラノフ指揮 ソビエト国立交響楽団

第5曲も後半になり盛り上がりも頂点に達してきました。こと演奏効果という点に関してはこの世に数多とある音楽作品の中でも上位を狙える見事な出来です。合唱もロシア語はともかくとして音程的には誰でも歌えるくらいに妥当かつ歌唱効果の高いものですし、オケの方も決して簡単ではありませんが、しかし合唱相手ということで気にせず音量が出せるので実際にはかなりのパワーを発揮できる曲でもあります。

ユーリ・テミルカノフ指揮 サンクト・ペテルブルク管弦楽団

行進曲らしく実に元気があって爽快な曲です。テンポ変化がないので指揮するとかなりつまらない面もありますが、実はオーケストラに関しては cresc と dim (松葉の開きと閉じ)が細かく頻繁に指示されていて、合唱を邪魔しないように配慮しつつスペクタルな演奏効果も発揮できるようになっています。